「岸和田古城跡」の保存について、大阪歴史学会では昨年11月7日付で要望書を提出し、また地元の「保存を考える会」と連携し、12月から本年3月までの4回の市民シンポジウムに協力してきました。このシンポジウムを通して、南北朝期にさかのぼるこの古城が、平地の大規模な城跡の一画であること、地域のかなりの権力者の居城であったと推定できることと、現在地に岸和田城が築城される以前には、古城川沿いに人々の居住があった可能性が高いことが考えられるようになりました。城跡の内容はまだ不明な点もあり、その構造や存続期間など慎重な吟味が必要ですが、この古城跡が中世を通して地域の拠点として機能し城郭としての発展を遂げ、これを前提に16世紀前半と考えられる現岸和田城の築城にいたるという展開が見通されるにいたっています。
以上のように、古城跡の性格や重要性は一層明らかになり、現在の岸和田の出発点となる遺跡として、岸和田にとって何ものにもかえられない貴重な遺跡であることは明白です。本来は指定史跡として将来にわたって保存すべきものであり、これが開発により破壊されることは、大阪府・岸和田市の文化財行政の失態としか言いようがありません。このまま記録保存の発掘調査を経て破壊されるほかないのでしょうか。
大阪府・岸和田市当局も保存の道を探ってこられたようですが、結局のところ、財政事情もあり、現状では難しいとの判断に変わりなく、記録保存の調査に至ったことはまったく遺憾であります。関係機関には、なお保存の道がないのか探ることとともに、以下の点について強く要望します。
なお、要望点について書面による回答をいただきますよう、お願い申し上げます。
記
1.開発行為に対して必要十分な発掘調査を実施すること。
2.遺跡の重要性に鑑み、城郭専門家による十分な指導体制を整えること。
3.遺跡に対する市民の関心は高く、マスコミへの情報提供や現地説明会の実施はもちろん、調査成果を広く市民に公開すること。
4.重要な遺構・遺物が出土した場合、開発業者と保存協議をおこなうこと。
2007年5月31日
大阪歴史学会代表委員 藪田貫
〔岸和田市長、大阪府教育委員会教育長、文化庁長官、開発業者社長に送付〕
「岸和田古城の保存に関する要望書」について[回答](2007.6.28)
岸和田の地名との関わりが深いということで、多くの団体から保存についての要望書が出されていますし、約5,800名にのぼる署名をとおして市民の声も頂いています。
本市としましては、市民の声を重く受け止め、また遺跡の重要性を鑑み、文化庁・大阪府教育委員会とも協議を重ね、遺跡の保存についての方策を探ってきましたが、結果的には記録による保存という方法を取らざるを得ない状態になったことはご承知のとおりです。その後も、なお保存の道がないかと探ってまいりましたが、現状では従来の判断と変わりがない状態です。
2007年5月31日付で頂きました「岸和田古城に関する要望書」にあります要望点について、次のとおり回答します。
「1.開発行為に対して必要十分な発掘調査を実施すること。」については、4月23日から7月21日までの予定で発掘調査を実施していますので、調査に必要な期間は確保できたのではないかと思います。
「2.遺跡の重要性に鑑み、城郭専門家による十分な指導体制を整えること.」については、必要に応じて、城郭専門家の指導・助言を頂くことも考えています。
「3.遺跡に対する市民の関心は高く、マスコミヘの情報提供や現地説明会の実施はもちろん、調査成果を広く市民に公開すること。」については、マスコミへの情報提供や調査成果の公開は行いたいと考えています。また現地説明会につきましては、第三者の現地立入について、事業者の承諾が必要となりますので、協議を行ってまいります。
「4.重要な遺構・遺物が出土した場合、開発業者と保存協議をおこなうこと。」については、状況を見極めながら大阪府教育委員会の指導・助言を受け、事業者と協議を進めていきたいと考えています。