声明・アピール

     2017年

「文化審議会文化財分科会企画調査会 中間まとめ」に関する見解(2017.11.1)

 2017年8月31日、文化庁により表題の「中間まとめ」が公表され、9月29日を期限としてパブリックコメント(意見募集)が実施されました。大阪歴史学会として期日までに対応できませんでしたが、ここに見解を表明します。

 この「中間まとめ」には、賛同できる論点も多く含まれています。とりわけ、「W.中長期的観点から検討すべき課題」として挙げられた、文化財行政に携わる人材や学芸員等の育成、文化財の周辺環境を含めて一体的に保全する仕組み、大規模災害発生時の文化財のレスキュー活動等などは、本学会の問題意識とも合致するものです。しかしながら、まず以下の2点について疑問を感じざるをえません。

 第1に、この「中間まとめ」が、文部科学大臣による5月19日の諮問からわずか3ヶ月余りでまとめられた点です。文化財の保存・活用についての「基本計画」策定を求めるとの内容は、法改正も考えられているようですが、今後の文化財行政の方針となる提言としては、あまりにも時間が短く、その影響など十分な議論がなされたのか疑問です。

 第2に、文化財の「保存優先」から「理解促進」や「活用」への転換を謳う政府の『明日の日本を支える観光ビジョン』(2016年3月)を承け、文化庁が、1000事業の実施や200箇所の観光拠点整備という内容をそのまま盛り込んだ「観光ビジョンに基づく行動指針」を2016年度にまとめた上で、2017年5月に諮問がなされた点です。

 以上のことからすると、「中間まとめ」の骨格である「基本計画」策定と事業費の重点配分という方針を短期間で打ち出したことは、政府の観光戦略に呼応し、文化財の観光資源化を進めるための法的整備への性急な対応との懸念をぬぐえません。

 私たちは、文化財の観光資源化を全面的に否定するものではありません。しかし、活用の前提として、文化財を未来にわたって大切に保存することの重要性になんら変わりはありません。活用については、まずは未指定文化財を含めた所在と現状の把握という基礎調査が必要であり、その上で、国や行政が決めるのではなく、住民が自分たちの地域づくりとして考えるべきものと考えます。観光資源化だけが活用ではありません。

 住民のさまざまな意見を尊重し、多様な活かし方を行政が助言し、全国の市町村において時間をかけて「基本計画」がまとめられること、これが最重要であると考えます。しかし「観光ビジョンに基づく行動指針」を掲げたことからすると、文化庁はこうした考え方にはないようです。「基本計画」策定の法制化とその運用は、観光資源化が可能かどうかによる選別・重点化をもたらし、市町村による格差が広がるものと予想されます。

 今回の議論はわが国の将来に大きく関わる問題です。観光資源化という前提ありきではなく、十分な時間をかけ、パブリックコメント等による意見をふまえ、丁寧な議論のもとで今後の検討を進めていただくことを求めます。


 2017年11月1日

大阪歴史学会

     2016年

日本軍「慰安婦」問題をめぐる最近の動きに対する日本の歴史学会・歴史教育者団体の声明(2016.5.30)

 わたしたち日本の歴史学会・歴史教育者団体は、日本軍「慰安婦」問題(以下、「慰安婦」問題)をめぐって、2015年5月に「「慰安婦」問題に関する日本の歴史学会・歴史教育者団体の声明」を発表した。だがその後、12月28日の日韓外相会談後におこなわれた共同記者発表(以下、日韓合意)と、2016年1月20日に言い渡された、吉見義明氏の名誉毀損をめぐる裁判(以下、吉見裁判)における原告敗訴の判決という、ふたつの大きな動きがあった。それらに対して、わたしたちは、以下の問題を指摘する。

 今回の日韓合意は、第一に、「慰安婦」制度の責任を曖昧にしている。歴史研究は、日本政府・日本軍が軍の施設として「慰安所」を立案・設置・管理・統制したこと、「慰安婦」制度の本質は性奴隷制度であったこと、当時の国内法・国際法に違反していたことを明らかにしてきた。合意はそれらを踏まえておらず、「慰安婦」制度の責任については「軍の関与」という曖昧な認定にとどまっている。第二に、元「慰安婦」の方々の名誉や尊厳という人権に深く関わる問題について、当事者を置き去りにしたまま、決着をはかろうとしている。今回の合意で「慰安婦」問題が「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認」し、国際社会において「互いに非難・批判することを控え」るとの表現によって、今後、歴史研究の進展にともなう新たな評価と問題解決の可能性が失われるのは不適切である。加えて、合意は歴史教育に言及しておらず、実際に教科書から「慰安婦」問題に関する叙述が削られる事態が進行している。教育によって歴史的事実を伝えていくことを、あらためて求める。日韓合意には、総じて当事者の思いや意思を顧みようとする姿勢がみられない。こうした、政府間で一方的に「解決」を宣言し、以降の議論を封殺するかのごとき手法では、「慰安婦」問題の抜本的な解決はありえない。

 一方、吉見裁判の判決文において、東京地方裁判所は、2013年5月に桜内文城衆議院議員(当時)が吉見義明氏の著書をめぐって「捏造」と発言したことを、「名誉毀損に該当する」と認定しながら、「意見ないし論評の域を逸脱したもの」とはいえないとして免責し、原告の請求を棄却した。「捏造」とは、おもな辞書によれば、「事実でないことを事実のようにこしらえ」る意であり、判決は、実証という手続きをかさね、学界で広く受け入れられてきた研究成果を、「捏造」と公言することの重大さを理解していない。研究者にとって、自らの研究成果が「捏造」と評されることは、研究者生命に直接関わる問題である。そうした事情を斟酌することのない発言と、それを容認するかのごとき不当な判決を、見過ごすことはできない。

 ふたつの動きは、問題の重要性を軽んじ、当事者を置き去りにしたまま、きわめて強引に「慰安婦」問題の幕引きをはかろうとする点で共通している。日韓両政府の関係者および日本の司法関係者が、「慰安婦」問題と真摯に向きあい、その真に根本的な解決にむけて取り組むことを求める。

 2016年5月30日

歴史学関係15団体
   
日本歴史学協会
大阪歴史科学協議会
大阪歴史学会
ジェンダー史学会
専修大学歴史学会
総合女性史学会
千葉歴史学会
東京歴史科学研究会
名古屋歴史科学研究会
日本史研究会
日本史攷究会
日本思想史研究会(京都)
歴史科学協議会
歴史学研究会
歴史教育者協議会

     2015年

「安全保障関連法案」の採決の強行に抗議し、その廃案を求める委員会声明(2015.7.27)

 去る7月16日、衆議院本会議はいわゆる「安全保障関連法案」を強行採決した。しかし「安全保障関連法案」は、日本国憲法下では認められない集団的自衛権の行使に道を開くものであり、私たちはこのような法案が成立することを許すことができない。

 日本国憲法第九条は、戦争を含む武力による威嚇や行使を行わないことを定めており、日本が集団的自衛権を行使できないことは自明であって、戦後の歴代内閣もそのことを繰り返し表明してきた。ところが2012年12月に成立した安倍晋三内閣は、2014年7月1日、集団的自衛権の行使が容認されるとする閣議決定を行った。現在、審議が進められている「安全保障関連法案」は、すでに多くの憲法学者・法曹関係者が指摘しているように、明らかに憲法解釈の許容範囲を逸脱している。

 あらためて述べるまでもなく、憲法とは「国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない」(日本国憲法第98条)。集団的自衛権の行使を可能とする「安全保障法案」は、日本国憲法に反するものであり、そのような法案をあくまでも「合憲」と主張する現政権もまた、国務大臣や国会議員に課せられた「憲法を尊重し擁護する義務」(同第99条)を放棄しているといわざるをえない。

 戦後日本の歴史学は、日本のみならずアジア・太平洋地域の多くの民衆に未曽有の惨禍をもたらしたアジア・太平洋戦争と、このような破局を招いた大日本帝国の歴史に対する痛切な反省に立脚し、平和と民主主義の理念を共通の基盤としてきた。しかし「安全保障関連法案」は、戦後70年にわたり守られてきた「不戦」という世界に誇るべき歴史にピリオドを打ち、日本の若者を戦地に送りだすことを可能にしようとするものである。また、憲法に反する「安全保障法案」が成立することは、日本国憲法が憲法である意義を失うことを意味し、民主主義国家の根幹である立憲主義そのものが危機に瀕する。

 以上の理由により、私たちは、歴史学研究の学術団体として、衆議院における「安全保障関連法案」の強行採決に抗議するとともに、その廃案を強く求めるものである。


 2015年7月27日

大阪歴史学会委員会

「慰安婦」問題に関する日本の歴史学会・歴史教育者団体の声明(2015.5.25)

 『朝日新聞』による2014年8月の記事取り消しを契機として、日本軍「慰安婦」強制連行の事実が根拠を失ったかのような言動が、一部の政治家やメディアの間に見られる。われわれ日本の歴史学会・歴史教育者団体は、こうした不当な見解に対して、以下の3つの問題を指摘する。

 第一に、日本軍が「慰安婦」の強制連行に関与したことを認めた日本政府の見解表明(河野談話)は、当該記事やそのもととなった吉田清治による証言を根拠になされたものではない。したがって、記事の取り消しによって河野談話の根拠が崩れたことにはならない。強制連行された「慰安婦」の存在は、これまでに多くの史料と研究によって実証されてきた。強制連行は、たんに強引に連れ去る事例(インドネシア・スマラン、中国・山西省で確認、朝鮮半島にも多くの証言が存在)に限定されるべきではなく、本人の意思に反した連行の事例(朝鮮半島をはじめ広域で確認)も含むものと理解されるべきである。

 第二に、「慰安婦」とされた女性は、性奴隷として筆舌に尽くしがたい暴力を受けた。近年の歴史研究は、動員過程の強制性のみならず、動員された女性たちが、人権を蹂躙された性奴隷の状態に置かれていたことを明らかにしている。さらに、「慰安婦」制度と日常的な植民地支配・差別構造との連関も指摘されている。たとえ性売買の契約があったとしても、その背後には不平等で不公正な構造が存在したのであり、かかる政治的・社会的背景を捨象することは、問題の全体像から目を背けることに他ならない。

 第三に、一部マスメディアによる、「誤報」をことさらに強調した報道によって、「慰安婦」問題と関わる大学教員とその所属機関に、辞職や講義の中止を求める脅迫などの不当な攻撃が及んでいる。これは学問の自由に対する侵害であり、断じて認めるわけにはいかない。

 日本軍「慰安婦」問題に関し、事実から目をそらす無責任な態度を一部の政治家やメディアがとり続けるならば、それは日本が人権を尊重しないことを国際的に発信するに等しい。また、こうした態度が、過酷な被害に遭った日本軍性奴隷制度の被害者の尊厳を、さらに蹂躙することになる。今求められているのは、河野談話にもある、歴史研究・教育をとおして、かかる問題を記憶にとどめ、過ちをくり返さない姿勢である。 当該政治家やメディアに対し、過去の加害の事実、およびその被害者と真摯に向き合うことを、あらためて求める。

 2015年5月25日

歴史学関係16団体
   
日本歴史学協会
大阪歴史学会
九州歴史科学研究会
専修大学歴史学会
総合女性史学会
朝鮮史研究会幹事会
東京学芸大学史学会
東京歴史科学研究会
名古屋歴史科学研究会
日本史研究会
日本史攷究会
日本思想史研究会(京都)
福島大学史学会
歴史科学協議会
歴史学研究会
歴史教育者協議会


     2014年