声明・アピール

     2022年

【報告】日本学術会議の声明   大阪歴史学会

 2022年12月6日に公表された、内閣府による日本学術会議についての方針に対し、日本学術会議は、12月21日に声明を発表した。今通常国会への関係法令の改正が打ち出されており、急ぎ、この声明を転載しておく。

声明
 内閣府「日本学術会議の在り方についての方針」(令和4年12月6日)について再考を求めます
令和4年(2022年)12月21日日本学術会議(日本学術会議第186回総会決定)

 本年12月6日、後藤茂之内閣府特命担当大臣(日本学術会議担当)より「日本学術会議の在り方についての方針」(以下「方針」)が公表された。また、同8日に行われた日本学術会議第186回総会(1日目)では、内閣府の笹川武総合政策推進室長より方針の内容について口頭による説明があった。そして本日の第186回総会(2日目)では、「日本学術会議の在り方について(具体化検討案)」について説明され、日本学術会議の在り方総会第1日目以降に会員から寄せられた質問や会長の懸念事項に回答された。

 日本学術会議の在り方については、2020年(令和2年)10月に当時の井上信治内閣府特命担当大臣(科学技術政策担当)と本会議の梶田隆章会長との会見の場でこの検討に着手することが合意された。これを受けて本会議では、2021年(令和3年)4月の第182回総会において「日本学術会議のより良い役割発揮に向けて」を決定し、科学的助言活動のあり方や会員選考プロセスの見直しをはじめとした一連の取り組みを着実に進めてきた。他方、政府では、総合科学技術・イノベーション会議有識者議員懇談会において審議が行われ、その結果は2022年(令和4年)1月21日に「日本学術会議の在り方に関する政策討議取りまとめ」として公表された。
 今回公表された方針はこれらを踏まえて政府内で検討されたものであるが、本来、本年夏には公表されるはずであったにもかかわらず、政府側の理由で遅延して、先般、公表となったものである。

 公表された方針では、本会議を国の機関として存置することが明記された。本会議は、ナショナル・アカデミーの「5要件(注)」に照らして現在の設置形態を「変更する積極的理由を見出すことは困難」と考えてきたが、その判断が容れられたものである。

 他方、内閣府からの説明によれば、公表された方針を基に選考過程に関与する第三者委員会の設置を含めた法改正が準備され、次期通常国会への法案提出が予定されているとのことである。しかるに、これらの事項は日本学術会議の独立性に照らしても疑義があり、日本学術会議の存在意義の根幹に関わるものである。その重大性にもかかわらず方針文書に具体的記述はなく、現時点でも個別改正事項の詳細は明らかにされていない。次期通常国会の召集まで残された時間は僅かであり、しかも以下に示した通り、いくつもの検討課題があるなか、法改正に向けて慎重な検討と丁寧な議論を行うことができるのかどうか、強い懸念を抱かざるをえない。主な懸念事項は以下の通りである。

 1そもそも、すでに学術会議が独自に改革を進めているもとで、法改正を必要とすることの理由(立法事実)が示されていない点

 2会員選考のルールや過程への第三者委員会の関与が提起されており、学術会議の自律的かつ独立した会員選考への介入のおそれのある点

 3また、第三者委員会による会員選考への関与は、任命拒否の正統化につながりかねない点

 4現在、説明責任を果たしつつ厳正に行うことを旨とした新たな方式により会員選考が進められているにもかかわらず、改正法による会員選考を行うこととされ、そのために現会員の任期調整が提示されている点

 5現行の三部制に代えて四部制が唐突に提起されたが、これは学問の体系に即した内発的論理によらない政治的 ・ 行政的判断による組織編成の提案であり、学術会議の独立性が侵害されるおそれが多分にあることを示した点

 6政府等との協力の必要性は重要な事項であるが、同時に、学術には政治や経済とは異なる固有の論理があり、 「政府等と問題意識や時間軸等を共有」できない場合があることが考慮されていない点

 日本学術会議はすでに令和3年(2021年)4月に「日本学術会議のより良い役割発揮に向けて」を公表し、着実に改革を進めている。また、総合科学技術・イノベーション会議における「日本学術会議の在り方に関する政策討議取りまとめ」に対しても「会長メッセージ」を発出し、「取りまとめが求める理想的なアカデミーの在り方とその実現に向けた方策の検討のためには、日本の学術全体を見据えた長期的かつ総合的な議論の場が必要であると考えます。(中略)そのような議論の場が設定されるのであれば、我々はそこに参加する用意があることを付言する」と述べたところである。

 しかるに、今般の方針は、当事者である日本学術会議、さらには学協会など学術コミュニティとの丁寧な意見交換や、何より学術を支えその成果を享受すべき国民との対話を欠いたまま示された。次期通常国会への法案提出を既定のものとされているが、このような拙速な改正法案の準備がなされようとしていることに、強い危惧を抱かざるをえない。

 「学術を皆様のものに」、これは梶田会長が就任の際に述べた言葉である。 学術が人類社会の公共財として活用され、多様な視点からの見解を基に政策立案に貢献することを目指すのであれば、まず肝要なことは、日本学術会議と政府の間に真の信頼関係が構築されることである。このような努力を十分に行わずに、日本学術会議の独立性を危うくしかねない法制化だけを強行することは、真に取り組むべき課題を見失った行為と言わざるを得ず、強く再考を求めたい。

注 ナショナル・アカデミーの5要件:1学術的に国を代表する機関としての地位、2公的資格の付与、3国家財政支出による安定した財政基盤、4活動面での政府からの独立、5会員選考における自主性・独立性。
なお、日本歴史学協会は、この日本学術会議の声明を支持し、拙速な法案提出をやめるよう求める緊急声明を、1月7日に発表している。

     2020年

政府の日本学術会議に対する不当介入に抗議し、その撤回を求める声明(2020.10.10)

 日本学術会議第25期の発足にあたり、同会議が推薦した新会員105名のうち、6名の任命を政府が拒否した。私たちはこれに断固抗議し、その撤回を強く求める。

 日本学術会議はその活動の独立性を法律によって保障された機関である。その人事についても独立した権限を有し、内閣総理大臣による任命が形式的なものにすぎないことは、政府みずからが認めてきたことである。日本の科学者を代表する機関に対する政府の不当な介入は、たんに一機関に対するものではなく、憲法23条で保障された学問の自由に対する重大な侵害と受け取らざるを得ない。

 事態の究明が進むにつれ、今回の任命拒否が突如として行われたものではなく、少なくとも2016年には、政府による介入が行われていたことが明らかになりつつある。このことは、事態の異常さを示すと共に、大学自治の剥奪や、軍事研究予算の増額など、学術の民主的かつ平和的な発展を阻害する一連の政策と対応するものであることを強く示唆している。

 すでに国の内外から多くの批判が寄せられているにもかかわらず、政府はまともな説明を行わず、撤回もしていない。日本における学問と思想の自由は、重大な岐路に立たされている。

 以上、私たちは、学問と思想の自由を擁護し、その成果を広く市民と共有することを願い、政府による日本学術会議に対する人事介入に断固抗議し、その撤回を強く求めるものである。                             以上

     2019年

旧陸軍墓地補修費の予算拡充に関する見解(2019.5.6)

 このたび、政府は国有財産の管理に係る経費を拡充することで、全国各地に存在する旧陸軍墓地の補修・修繕を実施することを決定し、2019年3月に平成31年度予算案を成立させました。今後、老朽化が進む旧陸軍墓地の把握と保全に向けて、適切な措置が講じられるものと考えられ、私たちはこの動きを歓迎します。

 ただし現状では、今回の旧陸軍墓地の補修費拡充について、政府の統一的な見解・計画が示されていません。政府は平成31年2月の第198回通常国会で、旧陸軍墓地の修繕については地方公共団体と国の役割分担の明確化を行った上で計画的に実施すると述べていますが、具体的な理念や方針については不明確なままです。本事業に着手しようとしている現在、近代日本の戦争と軍隊のあり方を理解する上で、旧陸軍墓地にどのような歴史的意味があるのか、補修や修繕をどのように進めるのか、これまでの歴史学研究の蓄積に基づき早急かつ慎重に議論する必要があります。

 つきましては、本会は、旧真田山陸軍墓地とその保存を考える会の特別賛助会員として旧陸軍墓地の保存と研究を支援してきたことから、今後の旧陸軍墓地の取扱いについては、以下のような認識をもって臨むことが肝要と考えますので、ここに表明します。


                     記

1.全国の旧陸軍墓地および被葬者の悉皆調査を行い、被葬者の実態を明らかにすることで、日本国民のみならず世界に対して平和の尊さを伝える基礎とする。

2.墓碑の修復にあたっては、無闇に配置や形状を変更せず、原形保存を基本とする。

3.旧真田山陸軍墓地のように特に重要な旧陸軍墓地については、文化財保護法に基づく史跡に指定する。

4.旧陸軍墓地の保存・研究を円滑に進めるため、国・都道府県・市町村などの行政機関は、研究・管理施設を設置し、関連する調査・研究を進める。

5.旧陸軍墓地の保存・維持するため、必要な財政基盤を確保し、管理組織をしかるべき省庁等の下に設置する。
                               以上

     2017年

「文化審議会文化財分科会企画調査会 中間まとめ」に関する見解(2017.11.1)

 2017年8月31日、文化庁により表題の「中間まとめ」が公表され、9月29日を期限としてパブリックコメント(意見募集)が実施されました。大阪歴史学会として期日までに対応できませんでしたが、ここに見解を表明します。

 この「中間まとめ」には、賛同できる論点も多く含まれています。とりわけ、「W.中長期的観点から検討すべき課題」として挙げられた、文化財行政に携わる人材や学芸員等の育成、文化財の周辺環境を含めて一体的に保全する仕組み、大規模災害発生時の文化財のレスキュー活動等などは、本学会の問題意識とも合致するものです。しかしながら、まず以下の2点について疑問を感じざるをえません。

 第1に、この「中間まとめ」が、文部科学大臣による5月19日の諮問からわずか3ヶ月余りでまとめられた点です。文化財の保存・活用についての「基本計画」策定を求めるとの内容は、法改正も考えられているようですが、今後の文化財行政の方針となる提言としては、あまりにも時間が短く、その影響など十分な議論がなされたのか疑問です。

 第2に、文化財の「保存優先」から「理解促進」や「活用」への転換を謳う政府の『明日の日本を支える観光ビジョン』(2016年3月)を承け、文化庁が、1000事業の実施や200箇所の観光拠点整備という内容をそのまま盛り込んだ「観光ビジョンに基づく行動指針」を2016年度にまとめた上で、2017年5月に諮問がなされた点です。

 以上のことからすると、「中間まとめ」の骨格である「基本計画」策定と事業費の重点配分という方針を短期間で打ち出したことは、政府の観光戦略に呼応し、文化財の観光資源化を進めるための法的整備への性急な対応との懸念をぬぐえません。

 私たちは、文化財の観光資源化を全面的に否定するものではありません。しかし、活用の前提として、文化財を未来にわたって大切に保存することの重要性になんら変わりはありません。活用については、まずは未指定文化財を含めた所在と現状の把握という基礎調査が必要であり、その上で、国や行政が決めるのではなく、住民が自分たちの地域づくりとして考えるべきものと考えます。観光資源化だけが活用ではありません。

 住民のさまざまな意見を尊重し、多様な活かし方を行政が助言し、全国の市町村において時間をかけて「基本計画」がまとめられること、これが最重要であると考えます。しかし「観光ビジョンに基づく行動指針」を掲げたことからすると、文化庁はこうした考え方にはないようです。「基本計画」策定の法制化とその運用は、観光資源化が可能かどうかによる選別・重点化をもたらし、市町村による格差が広がるものと予想されます。

 今回の議論はわが国の将来に大きく関わる問題です。観光資源化という前提ありきではなく、十分な時間をかけ、パブリックコメント等による意見をふまえ、丁寧な議論のもとで今後の検討を進めていただくことを求めます。


 2017年11月1日

大阪歴史学会

     2016年

日本軍「慰安婦」問題をめぐる最近の動きに対する日本の歴史学会・歴史教育者団体の声明(2016.5.30)

 わたしたち日本の歴史学会・歴史教育者団体は、日本軍「慰安婦」問題(以下、「慰安婦」問題)をめぐって、2015年5月に「「慰安婦」問題に関する日本の歴史学会・歴史教育者団体の声明」を発表した。だがその後、12月28日の日韓外相会談後におこなわれた共同記者発表(以下、日韓合意)と、2016年1月20日に言い渡された、吉見義明氏の名誉毀損をめぐる裁判(以下、吉見裁判)における原告敗訴の判決という、ふたつの大きな動きがあった。それらに対して、わたしたちは、以下の問題を指摘する。

 今回の日韓合意は、第一に、「慰安婦」制度の責任を曖昧にしている。歴史研究は、日本政府・日本軍が軍の施設として「慰安所」を立案・設置・管理・統制したこと、「慰安婦」制度の本質は性奴隷制度であったこと、当時の国内法・国際法に違反していたことを明らかにしてきた。合意はそれらを踏まえておらず、「慰安婦」制度の責任については「軍の関与」という曖昧な認定にとどまっている。第二に、元「慰安婦」の方々の名誉や尊厳という人権に深く関わる問題について、当事者を置き去りにしたまま、決着をはかろうとしている。今回の合意で「慰安婦」問題が「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認」し、国際社会において「互いに非難・批判することを控え」るとの表現によって、今後、歴史研究の進展にともなう新たな評価と問題解決の可能性が失われるのは不適切である。加えて、合意は歴史教育に言及しておらず、実際に教科書から「慰安婦」問題に関する叙述が削られる事態が進行している。教育によって歴史的事実を伝えていくことを、あらためて求める。日韓合意には、総じて当事者の思いや意思を顧みようとする姿勢がみられない。こうした、政府間で一方的に「解決」を宣言し、以降の議論を封殺するかのごとき手法では、「慰安婦」問題の抜本的な解決はありえない。

 一方、吉見裁判の判決文において、東京地方裁判所は、2013年5月に桜内文城衆議院議員(当時)が吉見義明氏の著書をめぐって「捏造」と発言したことを、「名誉毀損に該当する」と認定しながら、「意見ないし論評の域を逸脱したもの」とはいえないとして免責し、原告の請求を棄却した。「捏造」とは、おもな辞書によれば、「事実でないことを事実のようにこしらえ」る意であり、判決は、実証という手続きをかさね、学界で広く受け入れられてきた研究成果を、「捏造」と公言することの重大さを理解していない。研究者にとって、自らの研究成果が「捏造」と評されることは、研究者生命に直接関わる問題である。そうした事情を斟酌することのない発言と、それを容認するかのごとき不当な判決を、見過ごすことはできない。

 ふたつの動きは、問題の重要性を軽んじ、当事者を置き去りにしたまま、きわめて強引に「慰安婦」問題の幕引きをはかろうとする点で共通している。日韓両政府の関係者および日本の司法関係者が、「慰安婦」問題と真摯に向きあい、その真に根本的な解決にむけて取り組むことを求める。

 2016年5月30日

歴史学関係15団体
   
日本歴史学協会
大阪歴史科学協議会
大阪歴史学会
ジェンダー史学会
専修大学歴史学会
総合女性史学会
千葉歴史学会
東京歴史科学研究会
名古屋歴史科学研究会
日本史研究会
日本史攷究会
日本思想史研究会(京都)
歴史科学協議会
歴史学研究会
歴史教育者協議会

     2015年

「安全保障関連法案」の採決の強行に抗議し、その廃案を求める委員会声明(2015.7.27)

 去る7月16日、衆議院本会議はいわゆる「安全保障関連法案」を強行採決した。しかし「安全保障関連法案」は、日本国憲法下では認められない集団的自衛権の行使に道を開くものであり、私たちはこのような法案が成立することを許すことができない。

 日本国憲法第九条は、戦争を含む武力による威嚇や行使を行わないことを定めており、日本が集団的自衛権を行使できないことは自明であって、戦後の歴代内閣もそのことを繰り返し表明してきた。ところが2012年12月に成立した安倍晋三内閣は、2014年7月1日、集団的自衛権の行使が容認されるとする閣議決定を行った。現在、審議が進められている「安全保障関連法案」は、すでに多くの憲法学者・法曹関係者が指摘しているように、明らかに憲法解釈の許容範囲を逸脱している。

 あらためて述べるまでもなく、憲法とは「国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない」(日本国憲法第98条)。集団的自衛権の行使を可能とする「安全保障法案」は、日本国憲法に反するものであり、そのような法案をあくまでも「合憲」と主張する現政権もまた、国務大臣や国会議員に課せられた「憲法を尊重し擁護する義務」(同第99条)を放棄しているといわざるをえない。

 戦後日本の歴史学は、日本のみならずアジア・太平洋地域の多くの民衆に未曽有の惨禍をもたらしたアジア・太平洋戦争と、このような破局を招いた大日本帝国の歴史に対する痛切な反省に立脚し、平和と民主主義の理念を共通の基盤としてきた。しかし「安全保障関連法案」は、戦後70年にわたり守られてきた「不戦」という世界に誇るべき歴史にピリオドを打ち、日本の若者を戦地に送りだすことを可能にしようとするものである。また、憲法に反する「安全保障法案」が成立することは、日本国憲法が憲法である意義を失うことを意味し、民主主義国家の根幹である立憲主義そのものが危機に瀕する。

 以上の理由により、私たちは、歴史学研究の学術団体として、衆議院における「安全保障関連法案」の強行採決に抗議するとともに、その廃案を強く求めるものである。


 2015年7月27日

大阪歴史学会委員会

「慰安婦」問題に関する日本の歴史学会・歴史教育者団体の声明(2015.5.25)

 『朝日新聞』による2014年8月の記事取り消しを契機として、日本軍「慰安婦」強制連行の事実が根拠を失ったかのような言動が、一部の政治家やメディアの間に見られる。われわれ日本の歴史学会・歴史教育者団体は、こうした不当な見解に対して、以下の3つの問題を指摘する。

 第一に、日本軍が「慰安婦」の強制連行に関与したことを認めた日本政府の見解表明(河野談話)は、当該記事やそのもととなった吉田清治による証言を根拠になされたものではない。したがって、記事の取り消しによって河野談話の根拠が崩れたことにはならない。強制連行された「慰安婦」の存在は、これまでに多くの史料と研究によって実証されてきた。強制連行は、たんに強引に連れ去る事例(インドネシア・スマラン、中国・山西省で確認、朝鮮半島にも多くの証言が存在)に限定されるべきではなく、本人の意思に反した連行の事例(朝鮮半島をはじめ広域で確認)も含むものと理解されるべきである。

 第二に、「慰安婦」とされた女性は、性奴隷として筆舌に尽くしがたい暴力を受けた。近年の歴史研究は、動員過程の強制性のみならず、動員された女性たちが、人権を蹂躙された性奴隷の状態に置かれていたことを明らかにしている。さらに、「慰安婦」制度と日常的な植民地支配・差別構造との連関も指摘されている。たとえ性売買の契約があったとしても、その背後には不平等で不公正な構造が存在したのであり、かかる政治的・社会的背景を捨象することは、問題の全体像から目を背けることに他ならない。

 第三に、一部マスメディアによる、「誤報」をことさらに強調した報道によって、「慰安婦」問題と関わる大学教員とその所属機関に、辞職や講義の中止を求める脅迫などの不当な攻撃が及んでいる。これは学問の自由に対する侵害であり、断じて認めるわけにはいかない。

 日本軍「慰安婦」問題に関し、事実から目をそらす無責任な態度を一部の政治家やメディアがとり続けるならば、それは日本が人権を尊重しないことを国際的に発信するに等しい。また、こうした態度が、過酷な被害に遭った日本軍性奴隷制度の被害者の尊厳を、さらに蹂躙することになる。今求められているのは、河野談話にもある、歴史研究・教育をとおして、かかる問題を記憶にとどめ、過ちをくり返さない姿勢である。 当該政治家やメディアに対し、過去の加害の事実、およびその被害者と真摯に向き合うことを、あらためて求める。

 2015年5月25日

歴史学関係16団体
   
日本歴史学協会
大阪歴史学会
九州歴史科学研究会
専修大学歴史学会
総合女性史学会
朝鮮史研究会幹事会
東京学芸大学史学会
東京歴史科学研究会
名古屋歴史科学研究会
日本史研究会
日本史攷究会
日本思想史研究会(京都)
福島大学史学会
歴史科学協議会
歴史学研究会
歴史教育者協議会


     2014年