声明・アピール

     2024年

大阪市文化財協会解散問題に関する質問状

                                 2024年7月9日
大阪市教育委員会事務局 御中
大阪市経済戦略局 御中
            大阪市文化財協会の解散に関する質問状
                                大阪歴史学会
                                大阪歴史科学協議会

 大阪市域の埋蔵文化財の発掘調査をはじめ、文化財の保護や普及事業を推進してきた大阪市文化財協会は、今年度をもって解散する予定とのことです。同協会は、1979年の設立以来45年にわたって、都市大阪における開発事業に際し質の高い調査を実施し(3100件以上)、多くの調査成果を導き(報告書270冊以上)、大阪の歴史研究の進展に多大な貢献をしてきました。さらに、難波宮や大阪城の調査、大阪歴史博物館の設立、資料の管理、講演会・シンポジウム等(400件以上)の普及事業、まちかどミュージアムの設置(市内30箇所以上)など、行政が本来担う文化財保護の諸施策において、大阪市文化財協会は実働部門として機能し、大阪市にとって不可欠な役割を果たしてきました。事業量の変動に対して運営努力を重ね、経営的にも安定して推移しています。大都市である大阪市の発掘調査事業量は、この先も大幅に下落することはないと思われます。なぜ、これほどの実績を上げ、大阪市の文化財保護行政を担ってきた団体を解散するのか、まったく理解できません。これは政策判断の明らかな誤りであり、強く反対の意を表明します。
 来年度から、市内の開発事業にともなう発掘調査は、調査期間1週間以上のものは大阪府文化財センターが、1週間未満のものは大阪市教育委員会事務局文化財保護課が実施するとのことです。基礎自治体が担う文化財保護行政にとって大きな後退であり、来年度以降、これまで同協会が行ってきたような質の高い発掘調査を円滑に実施することができるのか、危惧せざるをえません。
 ついては、以下5点の質問をいたします。お忙しいところ恐縮ですが、2024年8月2日(金)までに回答をお寄せいただきますようお願いします。

1.解散の決定に至るまでの経緯をご説明ください。
2.大阪市文化財協会を解散させる理由をお答え下さい。
3.大阪市教育委員会事務局は、今後、一定以上の調査期間を要する発掘調査を自ら実施しないとのことですが、これは大阪市の文化財保護行政にとって明らかに後退と考えられますが、この点についての見解をお答え下さい。
4.発掘調査事業量見込みに対する、事業者との調整、短期間の本発掘調査の実施や整理・報告、あるいは資料の管理や貸出等への対応、普及事業など、仕事量の増加に対し、対応可能であることを説明してください。
5.民間開発にともなう発掘調査事業量は見通しが立ちにくく、また大阪府文化財センターにも体制的な限界があるため、調査の遅延も予想されますが、市域の調査実施上の課題をどのように考えているのか、見解を聞かせてください。

 同文のものを大阪市教育委員会事務局と大阪市経済戦略局の両方に送付しております。回答については、恐れ入りますが、2学会事務局両方にお送りいただきますよう、お願い申し上げます。

大阪歴史学会事務局
〒662-8501 兵庫県西宮市上ケ原一番町1-155 関西学院大学文学部 高岡裕之研究室気付

大阪歴史科学協議会事務局
〒558-8585 大阪市住吉区杉本3-3-138 大阪公立大学大学院文学研究科 佐賀朝研究室気付

内閣府特命担当大臣決定「日本学術会議の法人化に向けて」(二〇二三年一二月二二日)の撤回を求め、日本学術会議の法人化に強く反対する声明

会員任命拒否問題から法人化方針提起に至る経緯
 二〇二〇年一〇月、当時の菅首相は、一名の歴史学研究者を含む六名の日本学術会議会員の任命を拒否した。以来政府は、任命拒否の理由を一切明らかにすることなく、日本学術会議の会員選考や組織の在り方の問題に論点をすり替え、ナショナル・アカデミーとして純粋に「学問の自由」の観点のもとに、研究者の主体性を尊重して設置・運営されるべき日本学術会議のあり方を根本から覆そうとしてきた。
 昨年四月に内閣府は、「日本学術会議法の一部を改正する法律案(検討中)」を提示し、政府や産業界の意向に沿った会員選考が可能になる仕組みの導入を図ったが、日本学術会議の勧告を受けていったんは撤回した。しかし、その後八月に、内閣府特命担当大臣の決定により、「日本学術会議の在り方に関する有識者懇談会」(以下、懇談会)なる組織が作られ、そこでの議論の結果、一二月二一日、「中間報告」が発出され、会員選考に当たって「選考に係るルールの策定や方針の検討に外部の目を入れる」ことや、「国とは別の組織になる方が活動・運営の自由度が高まることは間違い」ない等の観点から日本学術会議を法人化して(以下、「法人化」)国の組織から切り離すことが提言された。さらに翌一二月二二日には、内閣府特命大臣決定により「日本学術会議の法人化に向けて」が発出され、ついに「日本学術会議を国から独立した法人格を有する組織」とすることが政府の方針として言明されるに至った。こうした政府の動向の背景には、日本国憲法に定められた「学問の自由」のもと、「科学が文化国家の基礎であるという確信に立つて、科学者の総意の下に、わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命とし」(日本学術会議法前文)て設立された日本学術会議を、政府や産業界の意向に従属させようとする明白な狙いがある。

現行の日本学術会議の法的位置づけと設立以来の活動
 日本学術会議は、確かに内閣総理大臣が所轄する国の機関ではあるが、日本学術会議法第五条によって、科学の振興および技術の発達など、六項目に及ぶ事項について政府への勧告が認められている。この点から明らかなように、日本学術会議は、国の機関ではあるが政府から独立した特別な位置づけを与えられていることは明白である。しかしながら、「法人化」後の日本学術会議は、独立行政法人通則法のもとにおかれることが予想されるが、そうなれば現在の日本学術会議法第五条に規定される政府への勧告権が剥奪されることも懸念される。「法人化」の狙いの中には、国の機関でありながら独立して政府に勧告する機能を有する現在の日本学術会議を、単なる政府の「企画立案機能」の下請け機関とすることが看取される。
 また、日本学術会議は、その設立以来、二五〇を超える政府に対する勧告を行ってきた他、数多くの学術的な「提言」を行い「見解」を示すなど、学術政策に関わって有意義な活動を行ってきたことは高く評価されるべきである。むしろ、歴代の政府が、これらの勧告等の多くを黙殺してきたことこそ問題とされるべきであろう。ちなみに、現在の日本における歴史研究の基盤的機関の一つである国立公文書館は、一九五九年になされた日本学術会議の内閣総理大臣に対する勧告に基づいて設置されたものであるし、さらに一九八〇年になされた勧告「文書館法の制定について」はその後、一九八七年の公文書館法や一九九九年の国立公文書館法の制定につながっていることから、日本学術会議の先見的な勧告の意義は明らかである。政府は「法人化」ではなく、積極的に日本学術会議に諮問を行い、また、その勧告・提言・見解を学術政策に摂取する努力を行うべきである。
 この間、日本学術会議は、自らの組織としての在り方を前向きに検討し、二〇二一年四月に「日本学術会議のより良い役割発揮に向けて」を発出している。この中で、自由で民主的な国家に共通してみられるナショナル・アカデミーの不可欠な要件として、@学術的に国を代表する機関としての地位、Aそのための公的資格の付与、B国家財政支出による安定した財政基盤、C活動面での政府からの独立、D会員選考における自主性・独立性、の五点が挙げられている。もし、日本が、「自由」で「民主」的な国家なのであれば、これからの日本学術会議に必要な施策は、この五点を政府としてしっかり擁護していくことであり、それは現行の日本学術会議法の遵守であることは言を俟たない。ナショナル・アカデミーを事実上政府の隷属下に置こうとする「法人化」は、「自由」でも「民主」的でもない国家への転落を日本にもたらすことへと直結させることとなろう。

「法人化」の狙いと予想される未来
 今回の「日本学術会議の法人化に向けて」に示された、会員選考や組織構成のあり方は、二〇〇四年に導入された国立大学法人の学長選考や組織の在り方を彷彿とさせるものがある。法人化された国立大学が、事実上「学問の自由」や「大学の自治」を喪失し、さらには、日本を代表する大規模国立総合大学の多くが、「指定国立大学法人」や「国際卓越研究大学」の指定のため、事実上政府や産業界の意向を受け入れる体制作りに狂奔したことを忘れてはならない。
 また「法人化」に潜む問題点の一つに財政がある。「日本学術会議の法人化に向けて」においては、「法人化」後の日本学術会議に対して、「必要な財政的支援」を行い、「外部資金獲得の支援に必要な措置も検討」するとはしている。しかしこれも、十分な財政措置が採られないまま運営費交付金の交付額を大きく減少させられて多くの国立大学が財政的な苦境に陥り、その結果、政府・財界等の要望に沿う財政誘導を伴う政策への「隷従」を強いられている現状を見れば、日本学術会議の場合であっても、不十分な「支援」や「措置」を介して、結果的に財政誘導による政府・財界等への従属を招くことは必須である。
 以上、今回提起された日本学術会議の「法人化」の目的が、外部から会員選考のあり方に介入して政府・財界等の意向に沿う会員選考への道を開き、「政府等からの独立性を徹底的に担保する」との美名のもとでの「法人化」によってその財政基盤を不安定化させ、財政誘導を介して日本学術会議の在り方を政府・財界等の意向に従属させようとすることにあるのは明白である。かつて国家権力によって学問が戦争に奉仕させられた苦い経験を有する歴史学研究者・歴史教育者から組織される日本歴史学協会は、懇談会や内閣府が進めようとする、こうした日本学術会議の「法人化」の方針に強い反対の意を表するものである。日本学術会議は、先に述べた「日本学術会議のより良い役割発揮に向けて」を提起して自らの組織の在り方に対しての深化した自省・検討を行ってきているほか、創立以来、学術上の様々な課題に対する多くの有意義な「勧告」「提言」「見解」を発出するなど、ナショナル・アカデミーとして期待される充分な役割を果たしてきている。性急な会員選考の在り方や組織形態の変更は、日本の学術体制の根幹に遠い将来にまで亙る大きな禍根を残すものと言わざるを得ない。現行の日本学術会議法は、堅持されるべきである。内閣府は、日本の学術体制の在り方を根本から毀損しかねない「日本学術会議の法人化に向けて」を即座に撤回すべきである。

二〇二四年四月一五日


日本歴史学協会
秋田近代史研究会
大阪歴史科学協議会
大阪歴史学会
京都民科歴史部会
高大連携歴史教育研究会
交通史学会
駒沢史学会
ジェンダー史学会理事会
信濃史学会
首都圏形成史研究会
駿台史学会
戦国史研究会
専修大学歴史学会
地方史研究協議会
中国四国歴史学地理学協会
朝鮮史研究会幹事会
東海大学史学会
東北史学会
内陸アジア史学会
奈良歴史研究会
日本アメリカ史学会運営委員会
日本史研究会
日本史攷究会理事会・委員会
日本風俗史学会
白山史学会
福島大学史学会常任委員会
法政大学史学会
歴史科学協議会理事会・全国委員会
歴史学研究会
歴史学会
歴史教育者協議会
(賛同団体、二〇二四年四月五日現在)

     2022年

【報告】日本学術会議の声明   大阪歴史学会

 2022年12月6日に公表された、内閣府による日本学術会議についての方針に対し、日本学術会議は、12月21日に声明を発表した。今通常国会への関係法令の改正が打ち出されており、急ぎ、この声明を転載しておく。

声明
 内閣府「日本学術会議の在り方についての方針」(令和4年12月6日)について再考を求めます
令和4年(2022年)12月21日日本学術会議(日本学術会議第186回総会決定)

 本年12月6日、後藤茂之内閣府特命担当大臣(日本学術会議担当)より「日本学術会議の在り方についての方針」(以下「方針」)が公表された。また、同8日に行われた日本学術会議第186回総会(1日目)では、内閣府の笹川武総合政策推進室長より方針の内容について口頭による説明があった。そして本日の第186回総会(2日目)では、「日本学術会議の在り方について(具体化検討案)」について説明され、日本学術会議の在り方総会第1日目以降に会員から寄せられた質問や会長の懸念事項に回答された。

 日本学術会議の在り方については、2020年(令和2年)10月に当時の井上信治内閣府特命担当大臣(科学技術政策担当)と本会議の梶田隆章会長との会見の場でこの検討に着手することが合意された。これを受けて本会議では、2021年(令和3年)4月の第182回総会において「日本学術会議のより良い役割発揮に向けて」を決定し、科学的助言活動のあり方や会員選考プロセスの見直しをはじめとした一連の取り組みを着実に進めてきた。他方、政府では、総合科学技術・イノベーション会議有識者議員懇談会において審議が行われ、その結果は2022年(令和4年)1月21日に「日本学術会議の在り方に関する政策討議取りまとめ」として公表された。
 今回公表された方針はこれらを踏まえて政府内で検討されたものであるが、本来、本年夏には公表されるはずであったにもかかわらず、政府側の理由で遅延して、先般、公表となったものである。

 公表された方針では、本会議を国の機関として存置することが明記された。本会議は、ナショナル・アカデミーの「5要件(注)」に照らして現在の設置形態を「変更する積極的理由を見出すことは困難」と考えてきたが、その判断が容れられたものである。

 他方、内閣府からの説明によれば、公表された方針を基に選考過程に関与する第三者委員会の設置を含めた法改正が準備され、次期通常国会への法案提出が予定されているとのことである。しかるに、これらの事項は日本学術会議の独立性に照らしても疑義があり、日本学術会議の存在意義の根幹に関わるものである。その重大性にもかかわらず方針文書に具体的記述はなく、現時点でも個別改正事項の詳細は明らかにされていない。次期通常国会の召集まで残された時間は僅かであり、しかも以下に示した通り、いくつもの検討課題があるなか、法改正に向けて慎重な検討と丁寧な議論を行うことができるのかどうか、強い懸念を抱かざるをえない。主な懸念事項は以下の通りである。

 1そもそも、すでに学術会議が独自に改革を進めているもとで、法改正を必要とすることの理由(立法事実)が示されていない点

 2会員選考のルールや過程への第三者委員会の関与が提起されており、学術会議の自律的かつ独立した会員選考への介入のおそれのある点

 3また、第三者委員会による会員選考への関与は、任命拒否の正統化につながりかねない点

 4現在、説明責任を果たしつつ厳正に行うことを旨とした新たな方式により会員選考が進められているにもかかわらず、改正法による会員選考を行うこととされ、そのために現会員の任期調整が提示されている点

 5現行の三部制に代えて四部制が唐突に提起されたが、これは学問の体系に即した内発的論理によらない政治的 ・ 行政的判断による組織編成の提案であり、学術会議の独立性が侵害されるおそれが多分にあることを示した点

 6政府等との協力の必要性は重要な事項であるが、同時に、学術には政治や経済とは異なる固有の論理があり、 「政府等と問題意識や時間軸等を共有」できない場合があることが考慮されていない点

 日本学術会議はすでに令和3年(2021年)4月に「日本学術会議のより良い役割発揮に向けて」を公表し、着実に改革を進めている。また、総合科学技術・イノベーション会議における「日本学術会議の在り方に関する政策討議取りまとめ」に対しても「会長メッセージ」を発出し、「取りまとめが求める理想的なアカデミーの在り方とその実現に向けた方策の検討のためには、日本の学術全体を見据えた長期的かつ総合的な議論の場が必要であると考えます。(中略)そのような議論の場が設定されるのであれば、我々はそこに参加する用意があることを付言する」と述べたところである。

 しかるに、今般の方針は、当事者である日本学術会議、さらには学協会など学術コミュニティとの丁寧な意見交換や、何より学術を支えその成果を享受すべき国民との対話を欠いたまま示された。次期通常国会への法案提出を既定のものとされているが、このような拙速な改正法案の準備がなされようとしていることに、強い危惧を抱かざるをえない。

 「学術を皆様のものに」、これは梶田会長が就任の際に述べた言葉である。 学術が人類社会の公共財として活用され、多様な視点からの見解を基に政策立案に貢献することを目指すのであれば、まず肝要なことは、日本学術会議と政府の間に真の信頼関係が構築されることである。このような努力を十分に行わずに、日本学術会議の独立性を危うくしかねない法制化だけを強行することは、真に取り組むべき課題を見失った行為と言わざるを得ず、強く再考を求めたい。

注 ナショナル・アカデミーの5要件:1学術的に国を代表する機関としての地位、2公的資格の付与、3国家財政支出による安定した財政基盤、4活動面での政府からの独立、5会員選考における自主性・独立性。
なお、日本歴史学協会は、この日本学術会議の声明を支持し、拙速な法案提出をやめるよう求める緊急声明を、1月7日に発表している。

     2020年

政府の日本学術会議に対する不当介入に抗議し、その撤回を求める声明(2020.10.10)

 日本学術会議第25期の発足にあたり、同会議が推薦した新会員105名のうち、6名の任命を政府が拒否した。私たちはこれに断固抗議し、その撤回を強く求める。

 日本学術会議はその活動の独立性を法律によって保障された機関である。その人事についても独立した権限を有し、内閣総理大臣による任命が形式的なものにすぎないことは、政府みずからが認めてきたことである。日本の科学者を代表する機関に対する政府の不当な介入は、たんに一機関に対するものではなく、憲法23条で保障された学問の自由に対する重大な侵害と受け取らざるを得ない。

 事態の究明が進むにつれ、今回の任命拒否が突如として行われたものではなく、少なくとも2016年には、政府による介入が行われていたことが明らかになりつつある。このことは、事態の異常さを示すと共に、大学自治の剥奪や、軍事研究予算の増額など、学術の民主的かつ平和的な発展を阻害する一連の政策と対応するものであることを強く示唆している。

 すでに国の内外から多くの批判が寄せられているにもかかわらず、政府はまともな説明を行わず、撤回もしていない。日本における学問と思想の自由は、重大な岐路に立たされている。

 以上、私たちは、学問と思想の自由を擁護し、その成果を広く市民と共有することを願い、政府による日本学術会議に対する人事介入に断固抗議し、その撤回を強く求めるものである。                             以上

     2019年

旧陸軍墓地補修費の予算拡充に関する見解(2019.5.6)

 このたび、政府は国有財産の管理に係る経費を拡充することで、全国各地に存在する旧陸軍墓地の補修・修繕を実施することを決定し、2019年3月に平成31年度予算案を成立させました。今後、老朽化が進む旧陸軍墓地の把握と保全に向けて、適切な措置が講じられるものと考えられ、私たちはこの動きを歓迎します。

 ただし現状では、今回の旧陸軍墓地の補修費拡充について、政府の統一的な見解・計画が示されていません。政府は平成31年2月の第198回通常国会で、旧陸軍墓地の修繕については地方公共団体と国の役割分担の明確化を行った上で計画的に実施すると述べていますが、具体的な理念や方針については不明確なままです。本事業に着手しようとしている現在、近代日本の戦争と軍隊のあり方を理解する上で、旧陸軍墓地にどのような歴史的意味があるのか、補修や修繕をどのように進めるのか、これまでの歴史学研究の蓄積に基づき早急かつ慎重に議論する必要があります。

 つきましては、本会は、旧真田山陸軍墓地とその保存を考える会の特別賛助会員として旧陸軍墓地の保存と研究を支援してきたことから、今後の旧陸軍墓地の取扱いについては、以下のような認識をもって臨むことが肝要と考えますので、ここに表明します。


                     記

1.全国の旧陸軍墓地および被葬者の悉皆調査を行い、被葬者の実態を明らかにすることで、日本国民のみならず世界に対して平和の尊さを伝える基礎とする。

2.墓碑の修復にあたっては、無闇に配置や形状を変更せず、原形保存を基本とする。

3.旧真田山陸軍墓地のように特に重要な旧陸軍墓地については、文化財保護法に基づく史跡に指定する。

4.旧陸軍墓地の保存・研究を円滑に進めるため、国・都道府県・市町村などの行政機関は、研究・管理施設を設置し、関連する調査・研究を進める。

5.旧陸軍墓地の保存・維持するため、必要な財政基盤を確保し、管理組織をしかるべき省庁等の下に設置する。
                               以上

     2017年

「文化審議会文化財分科会企画調査会 中間まとめ」に関する見解(2017.11.1)

 2017年8月31日、文化庁により表題の「中間まとめ」が公表され、9月29日を期限としてパブリックコメント(意見募集)が実施されました。大阪歴史学会として期日までに対応できませんでしたが、ここに見解を表明します。

 この「中間まとめ」には、賛同できる論点も多く含まれています。とりわけ、「W.中長期的観点から検討すべき課題」として挙げられた、文化財行政に携わる人材や学芸員等の育成、文化財の周辺環境を含めて一体的に保全する仕組み、大規模災害発生時の文化財のレスキュー活動等などは、本学会の問題意識とも合致するものです。しかしながら、まず以下の2点について疑問を感じざるをえません。

 第1に、この「中間まとめ」が、文部科学大臣による5月19日の諮問からわずか3ヶ月余りでまとめられた点です。文化財の保存・活用についての「基本計画」策定を求めるとの内容は、法改正も考えられているようですが、今後の文化財行政の方針となる提言としては、あまりにも時間が短く、その影響など十分な議論がなされたのか疑問です。

 第2に、文化財の「保存優先」から「理解促進」や「活用」への転換を謳う政府の『明日の日本を支える観光ビジョン』(2016年3月)を承け、文化庁が、1000事業の実施や200箇所の観光拠点整備という内容をそのまま盛り込んだ「観光ビジョンに基づく行動指針」を2016年度にまとめた上で、2017年5月に諮問がなされた点です。

 以上のことからすると、「中間まとめ」の骨格である「基本計画」策定と事業費の重点配分という方針を短期間で打ち出したことは、政府の観光戦略に呼応し、文化財の観光資源化を進めるための法的整備への性急な対応との懸念をぬぐえません。

 私たちは、文化財の観光資源化を全面的に否定するものではありません。しかし、活用の前提として、文化財を未来にわたって大切に保存することの重要性になんら変わりはありません。活用については、まずは未指定文化財を含めた所在と現状の把握という基礎調査が必要であり、その上で、国や行政が決めるのではなく、住民が自分たちの地域づくりとして考えるべきものと考えます。観光資源化だけが活用ではありません。

 住民のさまざまな意見を尊重し、多様な活かし方を行政が助言し、全国の市町村において時間をかけて「基本計画」がまとめられること、これが最重要であると考えます。しかし「観光ビジョンに基づく行動指針」を掲げたことからすると、文化庁はこうした考え方にはないようです。「基本計画」策定の法制化とその運用は、観光資源化が可能かどうかによる選別・重点化をもたらし、市町村による格差が広がるものと予想されます。

 今回の議論はわが国の将来に大きく関わる問題です。観光資源化という前提ありきではなく、十分な時間をかけ、パブリックコメント等による意見をふまえ、丁寧な議論のもとで今後の検討を進めていただくことを求めます。


 2017年11月1日

大阪歴史学会

     2016年

日本軍「慰安婦」問題をめぐる最近の動きに対する日本の歴史学会・歴史教育者団体の声明(2016.5.30)

 わたしたち日本の歴史学会・歴史教育者団体は、日本軍「慰安婦」問題(以下、「慰安婦」問題)をめぐって、2015年5月に「「慰安婦」問題に関する日本の歴史学会・歴史教育者団体の声明」を発表した。だがその後、12月28日の日韓外相会談後におこなわれた共同記者発表(以下、日韓合意)と、2016年1月20日に言い渡された、吉見義明氏の名誉毀損をめぐる裁判(以下、吉見裁判)における原告敗訴の判決という、ふたつの大きな動きがあった。それらに対して、わたしたちは、以下の問題を指摘する。

 今回の日韓合意は、第一に、「慰安婦」制度の責任を曖昧にしている。歴史研究は、日本政府・日本軍が軍の施設として「慰安所」を立案・設置・管理・統制したこと、「慰安婦」制度の本質は性奴隷制度であったこと、当時の国内法・国際法に違反していたことを明らかにしてきた。合意はそれらを踏まえておらず、「慰安婦」制度の責任については「軍の関与」という曖昧な認定にとどまっている。第二に、元「慰安婦」の方々の名誉や尊厳という人権に深く関わる問題について、当事者を置き去りにしたまま、決着をはかろうとしている。今回の合意で「慰安婦」問題が「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認」し、国際社会において「互いに非難・批判することを控え」るとの表現によって、今後、歴史研究の進展にともなう新たな評価と問題解決の可能性が失われるのは不適切である。加えて、合意は歴史教育に言及しておらず、実際に教科書から「慰安婦」問題に関する叙述が削られる事態が進行している。教育によって歴史的事実を伝えていくことを、あらためて求める。日韓合意には、総じて当事者の思いや意思を顧みようとする姿勢がみられない。こうした、政府間で一方的に「解決」を宣言し、以降の議論を封殺するかのごとき手法では、「慰安婦」問題の抜本的な解決はありえない。

 一方、吉見裁判の判決文において、東京地方裁判所は、2013年5月に桜内文城衆議院議員(当時)が吉見義明氏の著書をめぐって「捏造」と発言したことを、「名誉毀損に該当する」と認定しながら、「意見ないし論評の域を逸脱したもの」とはいえないとして免責し、原告の請求を棄却した。「捏造」とは、おもな辞書によれば、「事実でないことを事実のようにこしらえ」る意であり、判決は、実証という手続きをかさね、学界で広く受け入れられてきた研究成果を、「捏造」と公言することの重大さを理解していない。研究者にとって、自らの研究成果が「捏造」と評されることは、研究者生命に直接関わる問題である。そうした事情を斟酌することのない発言と、それを容認するかのごとき不当な判決を、見過ごすことはできない。

 ふたつの動きは、問題の重要性を軽んじ、当事者を置き去りにしたまま、きわめて強引に「慰安婦」問題の幕引きをはかろうとする点で共通している。日韓両政府の関係者および日本の司法関係者が、「慰安婦」問題と真摯に向きあい、その真に根本的な解決にむけて取り組むことを求める。

 2016年5月30日

歴史学関係15団体
   
日本歴史学協会
大阪歴史科学協議会
大阪歴史学会
ジェンダー史学会
専修大学歴史学会
総合女性史学会
千葉歴史学会
東京歴史科学研究会
名古屋歴史科学研究会
日本史研究会
日本史攷究会
日本思想史研究会(京都)
歴史科学協議会
歴史学研究会
歴史教育者協議会

     2015年

「安全保障関連法案」の採決の強行に抗議し、その廃案を求める委員会声明(2015.7.27)

 去る7月16日、衆議院本会議はいわゆる「安全保障関連法案」を強行採決した。しかし「安全保障関連法案」は、日本国憲法下では認められない集団的自衛権の行使に道を開くものであり、私たちはこのような法案が成立することを許すことができない。

 日本国憲法第九条は、戦争を含む武力による威嚇や行使を行わないことを定めており、日本が集団的自衛権を行使できないことは自明であって、戦後の歴代内閣もそのことを繰り返し表明してきた。ところが2012年12月に成立した安倍晋三内閣は、2014年7月1日、集団的自衛権の行使が容認されるとする閣議決定を行った。現在、審議が進められている「安全保障関連法案」は、すでに多くの憲法学者・法曹関係者が指摘しているように、明らかに憲法解釈の許容範囲を逸脱している。

 あらためて述べるまでもなく、憲法とは「国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない」(日本国憲法第98条)。集団的自衛権の行使を可能とする「安全保障法案」は、日本国憲法に反するものであり、そのような法案をあくまでも「合憲」と主張する現政権もまた、国務大臣や国会議員に課せられた「憲法を尊重し擁護する義務」(同第99条)を放棄しているといわざるをえない。

 戦後日本の歴史学は、日本のみならずアジア・太平洋地域の多くの民衆に未曽有の惨禍をもたらしたアジア・太平洋戦争と、このような破局を招いた大日本帝国の歴史に対する痛切な反省に立脚し、平和と民主主義の理念を共通の基盤としてきた。しかし「安全保障関連法案」は、戦後70年にわたり守られてきた「不戦」という世界に誇るべき歴史にピリオドを打ち、日本の若者を戦地に送りだすことを可能にしようとするものである。また、憲法に反する「安全保障法案」が成立することは、日本国憲法が憲法である意義を失うことを意味し、民主主義国家の根幹である立憲主義そのものが危機に瀕する。

 以上の理由により、私たちは、歴史学研究の学術団体として、衆議院における「安全保障関連法案」の強行採決に抗議するとともに、その廃案を強く求めるものである。


 2015年7月27日

大阪歴史学会委員会

「慰安婦」問題に関する日本の歴史学会・歴史教育者団体の声明(2015.5.25)

 『朝日新聞』による2014年8月の記事取り消しを契機として、日本軍「慰安婦」強制連行の事実が根拠を失ったかのような言動が、一部の政治家やメディアの間に見られる。われわれ日本の歴史学会・歴史教育者団体は、こうした不当な見解に対して、以下の3つの問題を指摘する。

 第一に、日本軍が「慰安婦」の強制連行に関与したことを認めた日本政府の見解表明(河野談話)は、当該記事やそのもととなった吉田清治による証言を根拠になされたものではない。したがって、記事の取り消しによって河野談話の根拠が崩れたことにはならない。強制連行された「慰安婦」の存在は、これまでに多くの史料と研究によって実証されてきた。強制連行は、たんに強引に連れ去る事例(インドネシア・スマラン、中国・山西省で確認、朝鮮半島にも多くの証言が存在)に限定されるべきではなく、本人の意思に反した連行の事例(朝鮮半島をはじめ広域で確認)も含むものと理解されるべきである。

 第二に、「慰安婦」とされた女性は、性奴隷として筆舌に尽くしがたい暴力を受けた。近年の歴史研究は、動員過程の強制性のみならず、動員された女性たちが、人権を蹂躙された性奴隷の状態に置かれていたことを明らかにしている。さらに、「慰安婦」制度と日常的な植民地支配・差別構造との連関も指摘されている。たとえ性売買の契約があったとしても、その背後には不平等で不公正な構造が存在したのであり、かかる政治的・社会的背景を捨象することは、問題の全体像から目を背けることに他ならない。

 第三に、一部マスメディアによる、「誤報」をことさらに強調した報道によって、「慰安婦」問題と関わる大学教員とその所属機関に、辞職や講義の中止を求める脅迫などの不当な攻撃が及んでいる。これは学問の自由に対する侵害であり、断じて認めるわけにはいかない。

 日本軍「慰安婦」問題に関し、事実から目をそらす無責任な態度を一部の政治家やメディアがとり続けるならば、それは日本が人権を尊重しないことを国際的に発信するに等しい。また、こうした態度が、過酷な被害に遭った日本軍性奴隷制度の被害者の尊厳を、さらに蹂躙することになる。今求められているのは、河野談話にもある、歴史研究・教育をとおして、かかる問題を記憶にとどめ、過ちをくり返さない姿勢である。 当該政治家やメディアに対し、過去の加害の事実、およびその被害者と真摯に向き合うことを、あらためて求める。

 2015年5月25日

歴史学関係16団体
   
日本歴史学協会
大阪歴史学会
九州歴史科学研究会
専修大学歴史学会
総合女性史学会
朝鮮史研究会幹事会
東京学芸大学史学会
東京歴史科学研究会
名古屋歴史科学研究会
日本史研究会
日本史攷究会
日本思想史研究会(京都)
福島大学史学会
歴史科学協議会
歴史学研究会
歴史教育者協議会